【コラム】アドラー心理学:松岡修造さんに学ぶ「おめでとう」の言葉より大切なもの
平昌オリンピックでの松岡修造さんによるフィギュアスケート・宮原知子選手へのインタビューが話題になりました。
メダルには届かなかったものの、自己ベストで4位に入賞した部分に注目し「おめでとうと言いたい」と切り出したことが多くの人から称賛を受けました。
松岡修造さんのアスリートへの取材を通じた「勇気づけ」は、プロのコーチである私にとっても学ぶ点が多くいつも参考にしています。
今回のインタビューにもコーチングをはじめとする対人支援にとって大切なポイントがいくつか含まれていたので、その点について述べたいと思います。
今回の松岡修造さんのインタビューで我々が勘違いしてはいけないのは、他者に対して単に画一的にポジティブな声を掛ければ良いわけではないということです。
つまり「おめでとう」というポジティブな言葉が絶対的な「善」というわけではありません。
例えば、仮に宮原選手がメダルを逃したことに大きな失望感を抱いていたとして、そんな時に一方的に「おめでとう!」と声を掛けても、それが勇気づけになるとは限りません。
相手の感情への配慮なしに無理にポジティブサイドへ引っ張り上げようとすると、相手からは抵抗が生まれることがあります。
ポジティブの一方的な押し付けは、相手にとって時に嫌味や皮肉、おせっかいとして受け止められることもあるのです。
では、どうすればよいのでしょうか?
他者との関わりで、アドラー心理学が大切にしているものが「共感」です。
この「共感」があってはじめて投げかける言葉も決まってきます。
松岡修造さんの場合、
・自身も元々トップアスリートであり、ケガなどの挫折も経験してきた。
・そうした経験をもとに、大きなケガを負って復活を遂げた宮原選手をこれまで丹念に取材してきた。
・その中で、宮原選手の演技終了後の渾身のガッツポーズや、晴れやかな表情を見た。
これらの共感的要素から第一声に「おめでとう」という言葉が出てきたのではないかと思うのです。
最近、「コーチング」の認知度が上がるにつれ「コーチング=質問すること」と安易に捉え、「どんな質問をするか」「どんな言葉を掛けるか」ばかりにフォーカスしているケースをよく見かけます。
人間は決まった言葉を投げかければ、決まった反応が返ってくるほど単純な生き物ではありません。
アドラー心理学の観点から言えば、対人支援で大切なのは「何を言うか」よりも、「いかに相手に寄り添い、共感するか」です。
共感したうえで、本人も気づいていないポジティブな部分(正の部分)を気づかせてあげる。
逆に共感すること抜きに、いくらポジティブな部分を気づかせようとしても、
「そもそも私を理解してないあなたに言われたくない」となってしまいます。
コーチングに限らず「良い人間関係を築きたい」「人間関係を改善したい」という時は、まず相手への「共感」を意識してみてください。
共感しようとすれば、相手がどんな気持ちにいるのか話をじっくり聴かなければなりません。
この姿勢が最近よく言われる「傾聴」へとつながっていきます。
ポジティブの押し売りをしなくても、共感だけで相手が抱える問題が解決できる場合も少なくありません。
「自分の理解者がいる」ということが、本人とって大きな「勇気」と