【コラム】アドラー心理学から考える伊調馨選手パワハラ騒動の不思議
伊調選手へのパワハラ問題が話題となっています。
真実については明らかになっていませんが、現状わかっている事実からアドラーの学びにつながる部分を掘り下げたいと思います。
なおこの記事は決して事態の真相を追究するものではなく、アドラー心理学の理解を深める題材として騒動を扱うものですので、その旨をご理解ください。
今回注目したのはパワハラに関する告発が伊調選手本人ではなく、第三者たちによるものだという点です。
しかもこの点につき伊調選手は「報道されている中で、『告発状』については一切関わっておりません」とのコメントを発表しています。
つまり、パワハラ自体はあったのかもしれないが、少なくとも告発自体は伊調選手本人からの依頼ではなく、第三者の独断だったわけです。
これについて、アドラー心理学に「課題の分離」という考え方があります。
この課題の分離について書籍『嫌われる勇気』(岸見一郎,古賀健史著,ダイヤモンド社)では以下のように説明しています。
“われわれは『これは誰の課題なのか?』という視点から、自分の課題と他者の課題とを分離していく必要があるのです”(P.140)
“およそあらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むこと ― あるいは自分の課題に踏み込まれること ― によって引き起こされます” (P.140)
“誰の課題かを見分ける方法はシンプルです。『その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?』を考えてください” (P.141)
“課題を分離することは、自己中心的になることではありません。むしろ他者の課題に介入することこそ、自己中心的な発想なのです” (P.159)
相手の課題に無闇に介入することは、相手の人生をコントロールすることになり、自立した人生の歩みを阻害します。
また、相手からすれば「なんでも問題解決してくれる」という「甘え」の構造を生み出すことにもなり得ます。(さすがに伊調選手は甘えの構造には陥らないと思いますが…)
では今回の騒動を「課題の分離」に当てはめたとき、結末を最終的に引き受けるのは誰でしょうか?
はたして、これは誰の課題なのでしょうか?
本質的には栄コーチ、伊調選手、そしてレスリング協会ということになるでしょう。
つまり、伊調選手本人からの依頼なしに告発をした第三者たちは、「課題の分離」という考え方から言えば他人の課題に土足で介入していることになります。
コーチングなどの対人支援で大切なのは、相手の意思を尊重し、相手自身の意思と行動で困難を乗り越えられるようサポートすることです。
他者への貢献意欲が高い人は、困っている人を見るとつい余計な介入をし、相手の意思はお構いなしに「何かしてあげよう」としてしまいます。
しかし、この「してあげる」行動が、必ずしも相手にとって「吉」と出るとは限りません。
今回の騒動も、告発をした第三者たちは善意の気持ちで行動したのかもしれません。
しかし、ひょっとして伊調選手自身は大きな騒動にすることなく、穏便に解決することを望んでいたとしてもおかしくありません。
仮にそうだったとしたら、今回の告発は早計だったということになるでしょう。
この騒動が最終的に伊調選手にとってポジティブな結末につながれば良いですが、もしネガティブな方向に作用すれば、伊調選手は完全に第三者たちに巻き込まれた形になってしまいます。
読者の皆さんが、もし職場などでアドラー心理学やコーチングを活用して他者と関わるのであれば、その役割は他人の課題に介入して問題を「解決してあげる」ことではありません。
大切なのは本人の意思がどこにあるのかということ。
解決への意思決定はあくまで本人がするということです。
コーチは相手が望む意思と行動を確認し、その行動に向けて背中を押してあげる…
ぜひ、そんな姿勢を基本として持ってほしいと思います。
最後にアドラーの言葉を紹介しましょう。
“世話好きの人は、単に優しい人なのではない。
相手を自分に依存させ、自分が重要な人物であることを実感したいのだ。”
(『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』小倉広著,ダイヤモンド社)
今回のケースでは当事者間にどんなやりとりがあったか不明確であり、この言葉が当てはまるかどうか正直わかりません。
しかし、少なくとも皆さんが対人支援としてコーチングなどに取り組む際は、「他人の課題に過度に介入しない」と心掛けていただければと思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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