【コラム】アドラー心理学&ファシリテーション:コミュニケーション不足が原因と言うけれど…

今回はファシリテーションについて述べたいと思います。
サッカー・ワールドカップが直前に迫っておりますが、少し時をさかのぼって日本代表ハリルホジッチ前監督の解任劇から学べる点を探りたいと思います。
当時の日本サッカー協会の会見によれば、解任理由は「選手との間に多少のコミュニケーション不足が生じた」ということでした。
この組織におけるコミュニケーション不足という問題。
私が様々な企業でファシリテーションを行っていて、実際に頻繁に出てくる問題です。
「いま起きている問題は何ですか?」という問いに対して、
「コミュニケーション不足です。」
と、そのまま答えが返ってくるケースも多々あります。
ファシリテータ―はこの「コミュニケーション不足」という問題を慎重に扱う必要があります。
この問題が厄介なのは、「コミュニケーション不足」の認識は各々の「解釈」に基づいていることがほとんどで、人によって認識のズレが大きい点です。
場合によっては当人の「思い込み」ということも多々あります。
実際、ハリルホジッチ前監督も選手たちとの具体的なやり取りを示して「コミュニケーション不足は無かった」とサッカー協会とは逆の主張をしており、認識が異なっていることがわかります。
どちらが「正しいor間違っている」ではなく、そもそも双方の「コミュニケーション」に対する考え方に違いがあるのだと思います。
このように「コミュニケーション」とはかなり抽象的な概念なので、それが「十分とれているか否か」の客観的な判定は非常に難しいのです。
ですからファシリテータ―がこの問題をそのまま扱うと袋小路に迷い込みます。
コミュニケーション不足の解消策として、多くの場合無意味な会議がやたら増えていくという結果になりがちです。
ファシリテータ―として私がこの問題にアプローチするならこんな質問をします。
「コミュニケーション不足によって、いま何が起きていますか?」
「どんな出来事がきっかけでコミュニケーション不足と認識したのですか?」
「コミュニケーション不足」という人間の解釈ではなく、それによって起きている(と思われる)「事象」に目を向けた方が問題解決も適格に行えます。
人の解釈は「思い込み」の可能性があるため、そのまま扱うと効果的な問題解決にならないことが多いのです。
また、実際に起きている「事象」に注目した結果、「それはコミュニケーション不足によって起きているのではなく、他の要因によるものだった」ということも起こり得ます。
サッカーに話を戻せば、コミュニケーション不足によってチームに一体何が起きていたのでしょうか?
そもそもコミュニケーションが取れていれば問題は起きなかったのでしょうか?
「コミュニケーション不足」という抽象的な問題を解任理由に挙げたため、「いったい誰とのコミュニケーションなのか?全員なのか?数人なのか?」「協会が認識していたなら、なぜ事前に監督にそれを伝えなかったのか?」等、反論の余地を多く生んでしまいました。
ファシリテータ―はこのような状況に陥らないよう、抽象的な問題や人の解釈を直接扱う前に、まずは「事象」や「事実」にフォーカスして問題解決にあたってほしいと思います。【終】

渡邉幸生(アドラービジネスマネジメント協会 代表理事)
大学卒業後、大手生命保険会社にて法人営業を担当。その後、法人コンサルティングの経験を活かし「(株)すごい会議」認定コーチとして活動。独立後は活躍の場を広げるため、平本あきお氏のもとでコーチング技術を学び、さらに岩井俊憲先生のもとでアドラー心理学カウンセリングを学ぶ。現在はアドラー心理学を活用したプロの会議ファシリテーターとして多数の法人を顧客に活動。著書に「リーダーのための勇気づけマネジメント~ビジネスに生かすアドラー心理学~」(セルバ出版)がある。
・グロービス経営大学院(MBA)
・青山学院大学大学院(国際政治学修士)
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